今を生きるーパート2

友人が飼っている犬は、いつも自分の尻尾を追いかけながら尻尾に向かって吠えている。



最初は虫でもいるのかと思っていたが、そうではなく尻尾に怒っているらしい。



犬には自分という意識がないのでどうやら尻尾を自分のものとは思っていないようなのだ。



だから、視野に尻尾が入って来てそれが動くと吠えて威嚇するらしい。



自分という意識もなく自分そのものも見たことがないので尻尾がお尻にくっついていることも知らないから、尻尾を見る度に吠えて追いかけつかまえようとする。



何かの拍子に尻尾が見えなくなると、急にその行為をやめて静かになる。



毎日毎日飽きもせず同じことを繰り返している。



ついさっき同じことをやってもすぐに忘れてまた同じことをやっている。



犬には過去もなければ未来もない。



犬の過去や未来は人間の思考の中にしかない。



犬には時間や空間という意識はない。



犬は今しか生きていない。



今あることに反応しているにすぎない。



今が過ぎ去ればまた新しい今がある。



犬には今しかない。



人間の赤ん坊も犬と同じで今しかない。



「今鳴いたカラスがもうわろた」という諺があるが、ついさっきまで大声で泣いていた人間の子供がすっかりそのことを忘れてすぐに大声で笑っているように、子供の機嫌はすぐに変化するということを言ったものである。



人間も自意識が生まれて、他と自分を区別するようになるまでは常に今を生きている。



自意識が生まれて他と比較するようになると苦悩が生まれる。



悟りとは、人間も犬や赤ん坊のように本当は今しかないのに今ない過去や未来のことを思考で創ってあれこれ悩んで、不必要な問題をたくさん創っていると気付くことである。



犬や赤ん坊のように今あることだけに反応していればそれでいいのだと気付くことである。